今日、お日柄もよく

心浮き立つ遊びがしたい

少年少女と星のかけら(ピーター&ザ・スターキャッチャー)

昨年末の観劇納め!実は発表された時からずーっとタイトルが気になっていた演目でした。でもなんか発表画像めちゃくちゃ簡素だし(下記URLから見て欲しいけどマジで簡素である)、新国立劇場には馴染みがないし、キャストも入野さんくらいしかわからなかったのでためらっていた。児童文学を愛する私なら絶対好きなはずだけど、今いちドンピシャポイントがないからなぁ?と最後まで迷いつつ、チケットを取ったのが当日14:00くらいでした。感想ですが…弾丸して本当によかったなぁー!

ピーターパンの前日譚で、パッと見はハッピーエンド。でもそれって本当に?という奥行きのある物語だったと思います。


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名物らしいくまさん。ポスター画像は、今思えば嵐の中の子供たちだったんだなぁ。話を知る前は「なんの場面??」って思ってたな。

 

まず特筆すべきは舞台機構。

最初にドヤドヤ出てきた俳優たちの「皆さんの想像力をお借りしてここをいろいろな場所にします(ニュアンス)」という前口上からお話が始まります。キャストは総勢12名。場面によってクルクル多様な役を演じ分けられています。普段行くタイプの舞台ではお見掛けしない方が多かったけれど、その分役として見られてよかったのかも。次見たときにはあの人だってわかるようになりたいな。後からバッファロー吾郎の竹若さんがいたことに気づきました。

新国立劇場の小劇場(オペラいらなかった)にWのような格子状の舞台があって…こればっかりは観てもらった方が早いので動画を貼っちゃいます。もう非公開になってしまったけど、公式のバックステージ動画もおもしろかった!舞台監督さんのファンになってしまう笑

簡素な舞台は今までいくつか見てきたけど(例…グーテンバーグ、タイタニック)、大海原や島、2つの船…と本当に自由自在でした。人がドアノブを演じる姿は今後なかなか見れまいて。想像力でなんでも作れるというお手本みたいな舞台だったかも。

ストーリーは以下の通り。

ビクトリア朝時代の大英帝国。孤児の少年(のちのピーター・パン)は仲間とともに、卑劣な孤児院の院長により「ネバーランド号」に売られてしまう。船内で出会ったのは、好奇心旺盛な少女モリーモリーは、父アスター卿と同じく「スターキャッチャー」として、世界制覇を企む奴らから、地球に落ちてきた星のかけら「スタースタッフ」の威力を遠ざける使命を帯びていた。宝がつまっているトランクを狙う黒ひげたち海賊は船に襲いかかり、少年とモリーたちはトランクとともに海中に放り出されてしまう。やがて不思議な島モラスク島にたどり着いた彼らには、更なる冒険が待ち受け、そして......。(公式サイトより引用)

観たあと読み返すと、そこそこはしょられてるな~という印象。

 

主人公の少年は境遇のため結構ひねくれた性格で、かつ年相応の子供っぽさがある。入野自由さんが本当に10代にしか見えなくてすごい!!キャスティングした人見る目あるなー。孤児院仲間の少年2人とも別に仲良くはないので、天涯孤独感が強調されています。家族が欲しいと願うくだりもあり、序盤から切ない。最初は名前もなく、お前とかあなたとか適当に呼ばれている。

前半の舞台は2隻の船。いずれもランドゥーン国を目指しています。

【スピード自慢のワスプ号】

アスター卿、スコット船長、海賊黒ひげが乗っているスピード自慢の帆船。卿の目的は、確かランドゥーン国の火山火口にスタースタッフを投げ入れること。敢えて娘と離れたのはスタースタッフから遠ざけるため。しかし肝心のスタースタッフが入ったトランクは、ネバーランド号の悪徳船長によって既にすり替えられてしまっているのだった…。

【おんぼろのネバーランド号】

少年たち、そして父と離れてモリーと乳母が乗っている。スタースタッフを狙う悪徳船長ビル・スランクが支配しているが、求心力はなさげ。彼は少年たちを奴隷としてランドゥーン国の非道な王様に売り飛ばそうとしている。

この2つの船の場面が交互に挟まります。

 

少年たちはろくな食事も与えられず、奴隷扱い。豚のエサを食べさせられるシーンは演者の演技力(特に食いしん坊の孤児テッドの食べ方が汚かった)が高くて嫌だったな~笑 彼らを雑に扱う水夫は最初は冷酷なんだけど、いつのまにやら乳母といい感じに。ずるいな~。でも応援したいカップルです。なお女性キャストはモリーだけなので、乳母も男性が演じています。なかなか忠義心に厚く、途中でモリーそっちのけでロマンスが始まってもなんとなく憎めない人。ただ、乳母を男性が演じることでギャグになる感じはちょっと古いかなーと感じちゃう。意図的な演出なのかなー、どうかな。

3人1組で扱われてはいるものの、少年たちは孤児院で相当すさんだ暮らしをしてきたこともあってか、微妙に反目しあっている。プレンディスは自分がリーダーだと主張するけど少年は取り合わず、食事のことばかり考えているテッドはどちらかというとプレンディス寄り。かと言って全部言うことを聞くわけではなく…。プレンディスの「リーダーになりたいけれどなれないことがわかっている」という紹介文が切ない…。皆悪い子ではないんですよ…。

そこへたまたま船の中を探検していたモリーがやってくる。あっという間に少年たちをまとめて、部屋の外に食べ物を探しに行くことに。「アスター家は誰も置いてきぼりにしない!」とカラッと言いきるモリーには不思議な力強さがあり、豊原江理佳さんの演技が光っていました。多少こまっしゃくれているけれど、男の子たちより上手でリーダーシップに優れている。序盤は少年がかなりつっけんどんなので、観客はモリーの方が親しみやすいのではなかろうか。

船の中をモリーについてこっそり移動するシーンは、前述の舞台の上を廊下と部屋に見立て、ところどころドアノブ役の人が立っているのがおかしい。ドアノブ役を押したり引いたりすると各部屋が開き、賭け事、礼拝など様々な部屋の様子に切り替わります。

散策がてら、モリーが首から提げているペンダントに興味を示す少年たち。スターキャッチャーであるお父さんとの通信機器であること、スタースタッフは願いを叶える星の欠片で、スターキャッチャーたちが守っていること、モリーはまだ半人前であることが説明されます。スタースタッフの不思議な力の説明のために猫が宙を飛ぶんだけど、この猫もおじさんの俳優(確か竹若さん)が演じているため全然かわいくないー!笑

一方ワスプ号には悪名高き黒ひげが船員として紛れ込んでおり、正体を現してスタースタッフを奪おうとするも、トランクの中身はすり替えられた土くれ。急いでネバーランド号を追うことに。2つの船が嵐の中で交錯して、人々は不思議な島モラスク島に漂着します。船の小さい模型を使って2艘の接近を表現したり、いろいろと人力で乗りきっている感じ。嵐も人力で表現されて、なぜか全員で見栄を切る場面があったりしておかしい。海に投げ出されたスランク船長は、実は孤児であった悲惨な境遇が明らかにされるんだけど、誰にも助けてもらえずあっさり死んでしまうのでちょっとかわいそう…。

 

というわけで2幕の舞台はモラスク島。冒頭では、なぜか人魚になってしまった元魚たちが歌ったりするよ!全員が一列に並んで、人魚の扮装でお気楽な歌を奏でる謎場面。正直雑な女装シーン過ぎて、そういう仕様なんだろうけど笑っていいのかわからなかったな…。

スタースタッフの入ったトランクを守りつつ、お父さんと合流したいモリー一行。そしてそれを追う黒ひげたち…という構図だったはず。記憶が曖昧になってしまっていて悲しい。そうそう、忘れてはいけないのが島の先住民たち。王の「空飛ぶアサリ」とその息子「戦うエビ」です。王がかつてイギリスで奴隷にされていたことから、イギリス人は皆殺し!と少年たちを追いかけてくる…。息子が乳母と同じ屋敷で働いていたため最終的に和解できるんですが、この人たちの存在は結構唐突に感じた。でも島があったら人が住んでるよね。処刑道具として登場する、ピーターパンでお馴染みチクタクワニもはしごで再現されていたりして、子供も怖がらずに楽しめそう。

途中残りの3人を逃がすため、少年が囮に。その場でうおおおおーっと全力ダッシュする演出が強く記憶に残っています笑 そして逃げる途中迷い込んだ泉(入江だったかも)の金色に輝く不思議な水の中で、彼は「まだ子供でいたい」と無邪気な願いを呟く…。実は嵐で投げ出されたトランクからはスタースタッフが漏れてしまっており、近隣の水は願いを叶える魔法の水になっていたのでした。(このせいで魚たちは人魚に変身した)そのため、彼は意図せず永遠の子供になってしまったのでした…。というのがことのあらましです。

その前後に、追ってきた黒ひげとピーターの対話場面がありました。この黒ひげというキャラクター、お笑いおじさんとヤバいやつの境目が曖昧な感じで面白くも怖かった。スミーに冗談を言ってげらげら笑ってたかと思うと、突如人殺しの暗黒面が出てくるんだもの…。少年を仲間に率いれようと(?)あの手この手で誘惑しようとするので、え、乗るなよ乗るなよ…と念じていた。

この二人、悪役とヒーローにしては妙に距離感が近いのが見ていて不思議でした。特に、「君に名前をあげよう!」と言われた少年がすごく喜んで、もらったピーターという名前をあっさり名乗るあたり。普通敵につけられた名前とか嫌がらない?黒ひげはずっと「本当の悪党になりたい」と願っていて、相対するヒーローを求めていた。だからこそ、ピーターを気に入っているんですよね。お互い敵であるために生かさず殺さず追いかけっこを続けていくのかと思うとちょっと不気味。なんかジョーカーとバットマンみたい。九州公演のチラシには、まさかの「俺が欲しいのは、この俺を完璧にしてくれる真のヒーロー」という黒ひげの台詞がチョイスされていました。主題そこかよ!

 

さて無事にモリーたちと再開したあと、2人でちょっといい感じになる場面があり、めちゃくちゃ微笑ましかった。確かここで「僕はピーター!」と名乗る場面があり、名前ができて本当に嬉しかったんだろうし、モリーに聞いてもらいたかったんだよなぁと思いました。

この写真大好き。本当に年齢相応の少年少女に見えるんです。

モリーが思わずピーターにキスするくだりがあるんだけど、ご時世を反映してかまさかのサランラップ越し!キスシーンになると、床に置いてあるラップをサッと取って、ピーターの顔に押し付けてそのままキス。いや結構びっくりしました。そんなあからさまな対策あるだろうか。お客さんは笑ってたけど。子供向けでもあるから分かりやすく…ってことなのかな?他のカンパニーでは宝塚式に手で隠してキスとかをしているだろうところ、異色の演出でした。さすがに本家は普通にしてるだろう…。ピーターが「今キスしたの?なんで?したかったの?」と聞きまくるところが子供だな~。2人はまだ子供なので、お互い素直になれず全然進展しません。じれったい。けどいいの、2人にはまだ時間があるのだから…。

 ともあれ最終的に登場人物が勢揃いして、舞台上でひと悶着(モリーが人質に取られたり、ピーターと黒ひげが対決したり)あったあと、黒ひげが去ってひとまずめでたしめでたし。一番最後「お前がいることで俺は完璧な悪人になれる!」と笑いながら去っていくところはかなり怖かったです。物語は続いていく感じがひしひし。

アスター卿たちは一度本国へ戻り、その後スコット卿は北極へ新たな冒険に出掛けるぞ!ということで、史実を知っている観客はあ、死んじゃう…と微妙な気持ちになる。そういえばランドゥーン国ってどうなったの…悪い王さまとやらはいったい…と思ったら、原作小説は続きが結構出てるみたいですね。舞台だと回収しきれないから仕方ない。

 

さぁこれでハッピーエンド!ピーターも一緒に家に帰ろう!と言うモリーに対し、「スタースタッフに浸かってしまったピーターは連れて帰れない」とアスター卿。良い感じに説明していたけどあんまり論理的じゃなかったし、絶対やっかいごとを家に持ち帰りたくない、モリーとの暮らしには他の人を入れたくないって思っているのが見え見え。「アスター家は誰も置いてきぼりにしない!」がここで効いてくるのか。辛い。お父さんが家に連れて帰れないということで、ピーターたちは島に残ることに。

ピーターの名字「パン」とは「すべて」。島も鳥も人魚も友達も全てがあなたの家族!(だから寂しくない)とモリーは解釈したけれど、結局モリーと家族にはなれないってことで…。ピーターが心底欲しがっていた家族という形ではないという気がしてなりません。少年たちともまだ大親友!って感じではないし、どの媒体でもピーターパンとロストボーイズって親分子分で対等な仲間って感じがしないんだよね。だから一層孤独感が強まる。アスター卿の計らいで、最後のスタースタッフを使ってティンカーベルが生まれるのですが、それだって妖精だし。ティンカーベルの作り方、スタースタッフを帽子中でこねてるのがねるねるねるねみたいで、人外感ありありだったな…。

モリーと再会の約束をしたとしても、きっと2人はもう一緒に冒険しないでしょう。小さい頃遊んだ友達と再会しても、そのままの続きには戻らないという、誰でも体験しうるであろう経験が思い出されてグサッときました。既に終盤のモリーは精神的に大人に近づきつつあって、「もう歳をとったみたいだね」というピーターの拗ねたような冷めたようなセリフが怖かった。大人になることは自然で、何も悪くないことなのに、大人になるとピーターとは分かり合えなくなる。同じ時間はもう過ごせない。

一度お父さんの元に向かったモリーが、ピーターのところに戻って来て、ぐいっとキスをして去っていきます。少し前のピーターの疑問に答えて、最後の台詞は「そうよ、したかった!」。この答えを出したことで大人に一歩近づいた感じがしました。モリーはずっと素直に言いたかったのに、最後にならないと言えなかったんだな。そして彼はこの先もこの瞬間を覚えているのかな。覚えておいて欲しいな…。

幕間にパンフレットを読んだ時、ピーターの人物紹介「もし大人になることがあれば、モリーと大恋愛するだろう」の文にえーかわいい~とニコニコしていたのですが…。終演後改めて読み返すと、当たり前だけどピーターは大人にならないんですよね。でもモリーは「素敵な女性になるだろう」。ifの話だから、2人は絶対に大恋愛しないんですよね…。ここでさりげなく別れを匂わせるのやめてよ…。わかってて書いてるなスタッフめ…。ドキドキな冒険活劇!じゃないよほんとに!でもその切なさが私を魅了する!

彼らが普通の少年少女であったなら、淡い気持ちは少しずつ昇華されていつか形になったかもしれない。けれど少女は日常に戻り、少年は永遠に大人にならなくなってしまった。一緒に冒険した2人はもういないし、思い出も同じようには分かち合えないのが残酷だなぁ。

ラストは記憶がかなり曖昧になってしまったんだけど、モリーの娘がウェンディで、ピーターはウェンディの娘、またその娘と冒険に出掛けていくだろうということがさらっと言及されていました。あとは、ピーターはやっぱり昔のことをどんどん忘れていく…ということも。一番最後はピーターが(ほかの俳優たちに持ち上げられて)夜空へ舞い上がり、ときの声を上げて暗転。拍手ー。

 

総括して淡い恋も含んだ冒険物語であることや、楽しく見えてかなり切ない世界観がとっても好き。ただ、ピーターは人間の世界とは切り離されて永遠に子供として生きる…というのがどうしても悲しく思えてしまう。彼はそれで幸せなんだろうけど、わかりあえない生き物になってしまったというか。小説のピーターパンってやっぱり少し異質な存在扱いじゃないですか。いずれああなってしまうんだなと思うと…。一緒に過ごした記憶がお互い薄れてしまうことが寂しい。普通の人は一瞬で通りすぎてしまう子供時代がずっと続くから、仕方ないかもしれないんだけど。モリーたちとの冒険を観てきたこっちとしては辛い。まぁでもモリーの娘たちのところに来ているから覚えてはいるんだよね…。なお舞台の主題としては「想像力で翼が持てるよ!」という明るいものもあったはずなんですけど、そっちは全然印象に残っていない笑

こういう題材のミュージカルってほかにあったりするのかな。本家のピーターパンも観てみようかな。子供も一緒に楽しめるといううたい文句の演目で、確かに子供が見ても楽しい内容だったと思うけど、実は大人にぐさぐさ来るストーリーじゃないかと思います。

 

自分の記憶が薄れてしまったので、上記の感想にもきっと間違っているところはあるんじゃないかと思います。(ネットで見つけた英語のスクリプト読むか…)だから人の感想が読みたくて読みたくて。いろいろ検索しまくったんだけどなかなか長い感想を書いている人がいない…我こそは!という方がいたら、真剣に読ませて頂きたいです。

検索してるうちに公式の舞台写真ページを見つけました!ありがたい!!上のツーショットもばっちり入ってます!

しかも、よくよく調べたらシアタートークとかあったんか~~!!!聞きたかった!!!しかも司会中井さんじゃん!!!!カフェブレイクでおなじみの!!!うっそ~~~!!!!

 

このキャストでの再演って正直望めないのかなって悲観しちゃうんだけど、待ってます!!入野ピーターと豊原モリーだけでもなんとかスケジュール空けてほしい。いやでも、多彩なおじさまたちが脇を固めているこの布陣だからこそ子供たちが引き立つのであって…。やっぱ丸っと再演しましょ!!次はサランラップはナシね!さすがにちょっと萎えるから。

食わず嫌いをせずに、今後も新国立劇場に足を運んでみようかな。今年のラインナップが既にピンと来てないんだけど、来年の今頃には同じように感想を上げているような気もします。